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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)1053号 判決 1962年5月29日

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

訴訟費用は、各審を通じ被上告人の負担とする。

理由

上告代理人宮下輝雄の上告理由第二点について。

原判決は、本件農地の各売買はいずれも知事の許可を停止条件とする有効な債権契約であつて、その債務の履行として右農地を上告人から訴外竜原貞常へ、同訴外人から被上告人へ引き渡し占有を移転したものである以上、被上告人の占有は正権原にもとづくものというべきである旨判示している。しかし、農地法第三条所定の知事又は農業委員会の許可〔農地調整法第四条所定の知事又は農業委員会の承認(同法は農地法の施行に伴い昭和二七年七月一五日法律第二三〇号により廃止)〕なくしてなされた農地の売買契約は右許可(承認)を法定条件として成立し、右許可(承認)があればそのときから将来に向つて効力を生ずるが、右許可(承認)のあるまではその効力は生じないまま不確定の状態にあるものというべく、右許可(承認)のある前に農地の引渡がなされても、売買契約の効力が発生していないのであるから、その引渡を受けた者は、売主からその返還請求があつた場合には、右売買契約による債務の履行として引渡を受けたことを理由に右返還を拒むことはできないものと解するのを相当とする。そうすると、本件農地の売買契約による債務の履行として右農地の引渡を受けた被上告人の右占有は正権原にもとづくものであるとした原判決の判断は前記法条の解釈適用を誤つたものであつて、右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、その余の論旨について判断を加えるまでもなく原判決は破棄を免れない。

そして、原審の確定した事実関係のもとでは、被上告人は上告人に対し本件土地を引き渡す義務のあること明らかである。

よつて、民訴四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊)

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